WHILLは障がい者用ではないようだ。

↑着座位置から体をひねり車体後ろのバッテリーを映す。赤いLEDの上あたりに充電差込み口がある。無理しすぎて直後にiPhoneを落とした。


以前の記事でウィルは「かっこいい」デザインだからあまり好きではないと書いた。WHILL創業者の杉江 理氏がインタビューでこう言っている。デザインは「電動車いすのイメージを変えるために」かっこよくしているという。それはそれで正しい(上記動画・音声が出ます)。

もう10年以上前の話だ。ある駅でエレベーターを利用しようと近づくと、電動車いすの女性が先にいた。2台入れるエレベーターだったのでご一緒させてもらった。後ろから見ると背もたれは見たことのないもので、英字のロゴステッカーが貼ってあったので無邪気に「これは外国製ですか?」と聞いた。すると女性は「ううん」と小さな背中越しに答え、少し間を置いてから「でもね私、この車いす好きじゃないの」と言った。

僕は少し絶句してしまい声もかけられず、エレベーターの扉が開いて彼女が立ち去る姿を見ていた。悲しい話は世の中にいくらでも存在するが、これもその中の一つだ。見るとシートはアレンジされているが、車体はよくある国産の電動車いすだった。

彼女はきっとデザインが洒落ていないから嫌いというわけではないだろう。僕も一時的に乗ったことがあるからわかるが、シャシー剛性は段差どころか路面のうねりで歪むほどにひどく、尻はすぐに痛くなり、原因の一つに障害があるのは確かにしても、このタイプに乗っている人たちはみな辛そうに下を向いている。

これは完全に僕の偏見だが、こういうイスを作る人は尻や足腰が丈夫な男である。無理はない。硬くて路面で斜めになって足と背中がきゅうくつでも、彼らは尻と足腰と三半規管が丈夫だからそれに気が付かないのだ。足りないのは思いやりだ。

話がずれた。
杉江氏の言っていることは全くもって正しい。ウィルがかっこだけではないことは使ってみればわかる。細部までよく考えられているなと三日くらい乗ると思う。

そんなウィルでも解決したほうがよい箇所がいくつかある。主に三つ。重要度順に書く。

充電プラグ差し込み口の位置

他の二つは使い方や環境にもよるから必ずしもそうとはいえないが、充電プラグの差込み口位置はもう致命的にミスをしていると思う。ウィルのそれがどこにあるかというと(拡大写真を用意していないが)車体後部の下である。バッテリーがそこに収まるようになっていて、そのバッテリーへ直接プラグを差し込む。

これはどうやったって手が届かない。介助者の手が必要となる。たぶん健常者でも自分で座ったままここへプラグを挿すのはむずかしい。バッテリーは外して充電するのが正解というかもしれないが、バッテリーの位置も同じで今度は重量もあるため、もっとむずかしくなる。

ちょっと意地が悪い気がするのだけど、WHILLのサイトに次の文言が書かれている。

「例えば外出する際に、ドアを開けることや、歩道を移動することも誰かの手を煩わせる必要があった方(読みはかた。ほうではなく。当ブログ著者注)が、自分自身のペースで行動できるようになる。こうした事で自立心が徐々に芽生えていき、」

・・・自立心は芽生えても自分で充電ができないのでは自立できない。

僕はどうしているかというと、ベッドにウィルを横付けして移乗して降り、スマートフォンのアプリ(リモコン)で操作して方向転換させ、足元ぎりぎりまで寄せてプラグを挿す。このとき結構無理してかがむ。気をつけないとベッドからずり落ちる可能性があるため、かなり全身に力が入る。

ウィルに乗っていて何がしんどいかというとこの充電がしんどい。コストの問題だとは思うが手元に差込み口を持ってきてもらいたい。これは早急な改善が必要だと感じる。誰もが寝室に旋回できるスペースがあるわけではないだろう。あったにしてもしんどいのである。

オムニホイール

次に、室内で乗るなら最高だと書いたオムニホイール。ただ弱点もあってそれは屋外には向いていないということ。もうこれは構造としての宿命でもある。構造は調べてもらうとして具体的にどうなるか書くと、例えば点字ブロックのある歩道で進路変更をしようとすると点字ブロックを乗り越えられない。問題はここからなのだが、乗り越えられないから舵を少し強めに入れると急に点字ブロックにいきおいよく乗ってしまい、車体が突然斜め横を向く。このときもし後ろから自転車なりが追い越そうと至近距離にいれば、事故を起こす。その挙動は急だ。

正面への段差乗り越えはできる。しかし横方向へ段差がほんの少し(たぶん5ミリ程度でも)あるとそこへは乗れない。モーターパワーを使ってそのまま力づくでいくとコントロールが効かなくなる。

専門家が言っていたが、それがオムニホイールである。完全にフラットな硬い床面では抜群の自由度を誇るが、屋外には基本向かない。これは宿命だ。しかしWHILLのサイトにそうは書いていない。

タイヤ痕

我が家の床はクリーム色というか、白っぽい木の模様のフロアタイルが貼ってある。つまりビニールだ。それでウィルを購入前に黒いタイヤが気になった。床に痕がつくからである。これは杖のゴムも同じ。杖のゴムが黒いとトイレなどの同じ位置が黒くなるし、室内用のグレーのゴムなら色はつかない。

サイトを根気よく探していくと、後輪は痕のつかないものを採用しているとある。後輪は? 前輪はどうなんだと問い合わせフォームから送っても返事がこない。LINEがあるのでそこから送っても返事がない。

結局面倒になり、後輪がそうで前輪はそうじゃないなんてことがあるか、と思い購入に踏み切ったのだが見事に前輪のタイヤ痕がつく。東京のマンションは茶色のフローリングで、こちらにはつかない(厳密にはついてるんだろうけど目には見えない)。今年になってから後輪の痕もつき出した。

これは当事者にとってはまあまあ深刻である。クイック・ブライトなら取れるだろうと予想するが、ここは素直にグレータイヤを用意してほしい。黒いタイヤの方がそれはかっこいいと思うが、困る。僕も最初に乗ったショップライダーのタイヤを黒に履き替えたかったから気持ちはわかる。でも困っている。

後継車種に期待

さて、ここまで書いたがシートクッションと背もたれは改造するにしても、ウィルはいい車いすだと思っている。杉江氏の哲学もいいし、プロダクトもよくできていて事業も人類の発展に貢献していると思う。本当に。それを実際に感じた話を。

沖縄に行ったとき最初に泊まるホテルがマンション改装のものであった(ということは現地に着いてわかった)。ペルモビールC350で行ったのだが個別玄関のそれに段差があり、ドアも狭くて上り口も狭い。どう考えても入れない。しかたなくC350を降りてひとまずソファーに座ったが、もうそこから微動だにできないのである。くるくる回る天井のシーリングファンを見つめて、じんわり広がる絶望感を味わった。このソファーに尻を三日もつけてろというのか。

ふと、ウィルをレンタルできないかなと思った。あるいは妻とそういう話をしたのかもしれない。沖縄の取扱店を探して電話してみると、夕方には持ってきてくれるという。結局僕は三日借りて、買い出しはC350を使い、ウィルで夜に沖縄そばまで作った。楽しかった。他の車いすならとてもそういう気持ちにならなかったかもしれない。取扱店のホスピタリティはもちろん、ネットワークと普及率がすごいと言っているのだ。本当に人生変わっちゃうんですよ。

ユーザーの困っているところは真摯に解決してほしい。

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